生成AI活用のコツは「期待値」の見極め ― RLHF / RLVR から学ぶ依頼の使い分け
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はじめに:同じAIなのに、結果に差が出るのはなぜか
生成AIを業務で使っていると、「期待どおりの結果が返ってきた」ときと、「なんとなく物足りない結果だった」ときがあると思います。同じAIに頼んでいるのに、なぜこの差が生まれるのでしょうか。
私自身、毎日のように生成AIを使うなかで、ひとつの考え方にたどり着きました。それは、依頼する前に 「期待値」をあらかじめ持っておく ことです。ここで言う期待値とは、「この依頼なら、どれくらいの精度で結果が返ってくるか」という見込みのことです。
本記事では、私の経験をもとに、生成AIへの依頼を2種類に分けて整理してみます。この分け方を意識するだけで、頼み方も、返ってきた結果の使い方も変わってきます。
依頼は大きく2種類に分けられる
生成AIへの依頼は、大きく次の2つに分けられると考えています。
- 結果を期待する依頼 ― 正解が決まっていて、精度の高い結果を任せられるもの
- 結果を期待しすぎない依頼 ― 正解が決まっておらず、作業のサポート役として使うもの
それぞれ、どういうものか見ていきます。
結果を期待する依頼
プログラミングや数学のように、「正解」がはっきり存在するタイプの依頼です。こうしたタスクでは、生成AIの出力は比較的高い精度で期待できます。
たとえば数学の計算問題を考えてみてください。「1 + 1 は?」と聞かれれば、答えは「2」と決まっています。答えが一意に定まるので、合っているかどうかをそのまま判定できます。こうした依頼は、生成AIにとって相性がよいものです。
なぜ相性がよいのか。これには、生成AIの学習のしくみが関係しています。少し詳しくご説明します。
大規模言語モデルは、どのように学習しているのか
ChatGPTやClaudeといった大規模言語モデル(LLM)の学習は、いくつかの段階を踏んで進められます。
① 事前学習(Pretrain)
まずインターネット上の膨大なテキストを読み込み、文法や事実関係、文脈理解といった基礎能力を獲得します。言葉のしくみと世の中の知識を、ここでまとめて身につける段階です。
② 教師ありファインチューニング(SFT)
事前学習しただけのモデルは、人間が期待するような答え方をしてくれるとは限りません。そこで、プロンプトとそれに対する適切な回答のペアを人間が用意し、そのデータでモデルを微調整します。
③ 報酬モデルの学習と強化学習(RLHF)
ここが重要な段階です。RLHF(人間のフィードバックによる強化学習)では、モデルに複数の回答を生成させ、人間がその中で良いものに順位をつけ、その順位データから「報酬モデル」を学習させます。そして、その報酬モデルを使ってモデル本体をさらに最適化していきます。
「教師あり学習で正解率を高める」と聞くとシンプルに思えますが、実際には 事前学習・SFT・RLHF という複数の工程を組み合わせています。ChatGPTやClaudeなど、2026年時点の主要なAIモデルのほとんどが、RLHFまたはその派生手法を採用しています。
「結果を期待する依頼」と学習のしくみのつながり
近年はさらに進んで、RLVR(検証可能な報酬による強化学習) という手法が注目されています。これが「結果を期待する依頼」の精度に直接かかわってきます。
RLVRは、数学問題の正解を出せたか、コードがテストを通過したかといった、自動的に計算できる報酬を使って強化学習を行う手法です。たとえば数学問題なら最終回答を解析して正解かどうかをチェックし、プログラミングならテストケースを通して合否を判定します。正解・不正解を機械的に判定できるため、大量のデータで効率よく学習を進められます。
つまり、プログラミングや数学のように 「正解が明確に定義できるタスク」は、生成AIの学習方法と非常に相性がよい のです。だからこそ、結果を期待する依頼に対しては、精度の高い回答が期待できます。
なお、従来のRLVRは、正解が明確に定義された領域で、モデルの応答が正解と一致するかどうかを二値で判断する方式が主流でした。裏を返せば、正解が曖昧な領域ではこのやり方が効きにくい、ということでもあります。これが、次にお話しする依頼につながります。
結果を期待しすぎない依頼
一方で、「これが唯一の正解」というものが存在しない依頼もあります。こうした依頼は、生成AIに完成品を出してもらうというより、自分の作業をサポートしてもらう くらいの感覚で頼むのがちょうどよいと考えています。
「結果を期待しない」と聞くとネガティブに感じられるかもしれませんが、そういう意味ではありません。返ってきたものを 「検討するためのたたき台」「考えるきっかけ」 として受け取れば、十分に役立ちます。ゼロから自分で考えるよりずっと効率的になります。要は、使い方の問題です。
具体的にどのような依頼が「結果を期待しすぎない依頼」にあたるのか。私の経験では、次のようなものが挙げられます。
- メールの文章構成を考える
- 経営計画を立てる
- 新規ビジネスのアイデアを検討する
これらは、状況や前提、その人の価値観によって良し悪しが変わります。唯一の正解がありません。ですから、生成AIの出力をそのまま採用するのではなく、たたき台を受け取り、そこから自分で磨き上げていく ―― そうしたサポート役として使うのが適切です。
結果をある程度コントロールするコツ ― 自分の情報を渡す
「結果を期待しすぎない依頼」であっても、まったくの運任せにする必要はありません。私が実践しているのは、自分が持っている情報を生成AIに渡す という方法です。背景や前提条件を共有することで、返ってくる結果の方向性をある程度コントロールできます。
たとえば資料を作成するときに、
- どんな相手に向けた資料か
- どういう経緯で作ることになったか
- 盛り込みたい論点や避けたい論点は何か
といった背景情報をあらかじめ渡しておくと、出てくるたたき台の精度がぐっと上がります。逆に何も渡さないと、生成AIは学習済みの一般論をベースに答えるしかなく、当たり障りのない内容になりがちです。
ただし、絶対に守りたいルールがひとつあります。個人情報や機密情報は渡さない ということです。便利だからといってお客様の名前や社内の数字をそのまま貼り付けてしまうと、情報漏えいのリスクにつながります。渡す情報は、必要に応じて匿名化したり、抽象化してから共有するようにしています。
渡せる情報がないときは「作業を分割する」
新規の資料作成のように、そもそも渡せる情報が手元にない場合もあります。そんなときは、作業を分割する のがおすすめです。
いきなり「資料を作って」と頼むのではなく、まずは生成AIと一緒に 資料の方向性を決めるための壁打ち から始めます。
- どんな構成にするか、生成AIと相談しながら方向性を固める
- 固まった方向性を「次の作業に渡す情報」として整理する
- その情報をベースに、資料作成を依頼する
このように、情報を作る作業 と 資料を作る作業 を分けることで、最初は手元に何もなくても、最終的には方向性をコントロールした資料に仕上げることができます。
あえてコントロールしないという選択
逆に、結果をコントロールしたくない ときもあります。自分の前提にとらわれず、思いもよらないアイデアがほしい場面です。
その場合は、あえて背景情報を渡さず、生成AIの学習済みの知識だけで答えてもらうようにします。自分の枠の外にある発想を引き出したいときに有効な使い方です。
「情報を渡してコントロールする」「あえて渡さずに広げる」 ―― この2つを使い分けられるようになると、結果を期待しすぎない依頼の幅がぐっと広がります。
まとめ:依頼の前に「期待値」を想定する
依頼するタスクに対して、「これはどれくらいの精度で結果が返ってくるか」をあらかじめ想定しておく。たったそれだけで、頼み方も、返ってきた結果の使い方も大きく変わってきます。
- 結果を期待する依頼 ― 精度は高め。ある程度信頼して結果を任せられる
- 結果を期待しすぎない依頼 ― 完成品ではなく、作業のサポート役。たたき台として受け取り、自分で磨き上げる
生成AIを「なんでも完璧に答えてくれる魔法の箱」としてではなく、「期待値を見極めて使う道具」 として捉える。これが、生成AIと上手に付き合っていく第一歩だと考えています。
弊社では、生成AIの業務活用や社内導入について、企業の状況に合わせたサポートを行っています。「自社の業務でどう活かせばよいかわからない」という方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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